RIでは毎年1月をロータリー理解推進月間に指定しています。これはロータリアンには「ロータリー運動の本質とは何か」を理解してもらい、一般の人には「ロータリーは何をやっている団体か」を知ってもらう月間です。したがってロータリアンとロータリアン以外の人では理解してもらう内容の次元が違います。しかし最近、ロータリー理解推進月間はロータリアンへのアプローチは見られなくなり、一般の方に「私たちがどれだけ良いことをしたか、皆さんのお役に立っているかという事実を知ってもらう」というイメージアップを図るための宣伝・広報の月間になってしまいました。
ロータリアンには「ロータリー運動の本質とは何か」を理解してもらうといいましたが、では本来『ロータリー』理解推進月間とは、一体全体『ロータリー』の何を理解し、何を推進するのでしょうか?そのためには最初にロータリーという言葉を峻別しておく必要があります。ロータリーという言葉は、①ロータリアン、②ロータリークラブ、③国際ロータリー、そして以上3つを包含した④ロータリーの世界/Rotary Worldという意味で使われています。我々は日常、これら4つを漠然と『ロータリー』という一語で使い分けています。ではロータリー理解推進月間はこれら4つの内のどれを理解するのでしょうか?「ロータリアン」についての理解を深めるのでしょうか?「ロータリークラブ」、「国際ロータリー」の理解を推進するのでしょうか?否、この場合のロータリーは『ロータリー哲学』を意味します。ロータリー理解推進月間に理解しなければならないのは『ロータリー哲学』なのです。その証拠はどこにあるかというと手続要覧(2007年p84)の社会奉仕の中に、1923年、セントルイスの国際大会で採択された決議23―34号があります。この決議は先人の知恵の結晶で、『ロータリー』とは何か、ロータリーとはいかにあるべきかを記したロータリー思想の殿堂であります。その第1項に“Rotary is a philosophy of life”「ロータリーとは人生の哲学のことを言う」とあります。したがってロータリー理解推進月間とは、ロータリー哲学を理解することなのです。特に日本、韓国、台湾の東洋哲学の素養のあるロータリアンはこの言葉に心酔しています。そのため決議23―34号という味気のない呼称ではなく、「セントルイス宣言」の愛称で呼んでいます。少し長くなりますが、その項目を転載します。
《ロータリーは、基本的には、一つの人生哲学であり、それは利己的な欲求と義務及びこれに伴う他人のために奉仕したいという感情との間に常に存在する矛盾を和らげようとするものである。この哲学は奉仕――「超我の奉仕」の哲学であり、これは、「最もよく奉仕するもの、最も多く報いられる」という実践的な倫理原則に基づくものである》
これを一言で言うならば「ロータリーとは利己と利他との調和の哲学である」といえます。人は迷った時、導いてくれるガイドラインを必要とします。心の中で儲けたい心(利己)と他人に尽くしたい心(利他)とが綱引きをした時には明確なガイドラインが必要です。そのガイドラインの基準となるのが、「超我の奉仕」と「最もよく奉仕するもの、最も多く報いられる」という2つのロータリーモットーなのです。この2つのモットーはロータリーの主概念なのです。つまりロータリー理解推進月間にロータリアンが学ばなければならないことは、利己と利他との調和の哲学なのです。
しかし近年(約10年前より)、ロータリーは大きく変身しました。原因は何でしょうか。会員の減少です。冒頭に記したようにロータリー理解推進月間はロータリアン以外の一般の人たちにロータリーの善行を強調する月間となりました。ロータリーはもともとライオンズクラブと奉仕観が違い、一般の人への広報は難しい団体です。ライオンズの奉仕は団体で金銭奉仕をします。例会のたびにドネーション(寄付)を募りそのお金で町に救急車を寄贈したり、公園に時計塔を建てたり、ベンチを贈ったりして、街の人々に分かりやすい目に見える奉仕をします。それに比べてロータリーの奉仕の原点は「利己と利他との調和」の哲学を育むことです。そのために例会の親睦を通じて個々の職業人の質を高めるのが目的となります。つまりロータリーの奉仕は個人奉仕、精神奉仕で目に見えません。
このことはロータリアン自身でも明快に理解しがたく、まして一般の人々にはなかなか理解してもらえません。このロータリーの見えない奉仕に対して国際協議会では「新会員を募るにしても、協力団体を求めるにしても、すべてがほかの団体としのぎを削らなければならなくなった今日、広い意味での広報が私たちの将来のカギであるといえるでしょう」と強調しました。そこでロータリーも「一般の人々の目に見える好ましい公共イメージを広報することによってロータリーに新会員を惹きつける」「メディアを惹きつけるようクラブのプロジェクトや活動を改善する」「ロータリーと報道機関との関係改善」などが強調されるようになりました。今やロータリーもライオンズも会員獲得のためになりふり構わぬ生き残りをかけたサバイバルの時代となりました。ここで過去にRI理事会の採択した広報に関する方針の主なものをロータリー章典より年代順に追ってみましょう。
・1923年の決議34号(セントルイス宣言)
「ロータリークラブが奉仕の実践活動を選択する場合、広報宣伝を主要目的としてはならないけれども、ロータリーの影響力を強める手段として、優れたクラブの事業計画が見事に成功した場合、妥当な広報宣伝を行わなければならない」簡単にいえば、PRはするな。ただし適切な広報媒体があればPRしてもよい。
・1971―72年の理事会方針
「新会員をロータリーに惹きつけ、現会員を引き留めておくのに、広報が重要である」
・1972―73年の理事会方針
「広報をより効果的にするには、決議23―34に従って、各ロータリークラブが奉仕活動をするのが一番望ましい姿なのである」
・1977―78年の理事会方針
「ロータリーと報道機関との関係改善のために、適切な処置を講ずるようにする」
ざっとこんな具合で、決議23―34の広報宣伝を主要目的としない基本姿勢を守ろうとする声明から、積極的に広報に焦点を合わせた活動をすべきであるという意見まで、理事会方針そのものが大きく揺れ動いているのが分かります。
広報宣伝は効果がなければ意味がありません。効果の上がらなかった宣伝とは自分の主張だけで、実際の世の中の動きが黙殺したものであり、成功した宣伝とは実際の世の中の動きに追随したものであるといえます。広報宣伝は一般の人が考えてもいないことを、どんなに宣伝技術を凝らしてみたところで人々に理解させる力はないのです。わざわざ、ロータリアンが自分たちの功績を周囲に宣伝するのではなく、あらゆる場面にロータリアンとしての矜持を持って登場すれば、それが広報になるのです。広報宣伝は、ロータリーの思想普及の精神が表裏一体となっているのでなければ、無意味なことであると思います。